あらすじ
P◯RIKURA MINDのギタリスト、キタムラユウヤ。
この物語は、彼がバンドを組むよりも10年ほど前の物語である。
サッカー部廃部の危機からわずかな期間で全国大会を制し、国内に留まらず世界にその名を轟かせた『雷問中』。その後も、"伝説の世代"が連覇を果たし、雷問中は日本を代表する強豪校となっていた。 そんな強豪校から”伝説の世代”が卒業し、新たな時代を迎えようとしているその時、雷問中へと続く桜並木の下を歩く、一人の男、いや、漢がいた…。
スポーツ推薦で福岡から上京し、雷問中サッカー部に入部するキタムラ。しかし、その身に降りかかるいくつもの試練や、栗松…。キタムラはその全てを、乗り越ることができるのか。笑いあり、涙あり、元ネタわからないとクソおもんない、ちょっぴり泣けるコメディ。に、したかった。
※重要※
この物語は完全なフィクションであり、実在する人物や団体、既存の作品などとは一切ほんとにマジでガチで超ウルトラ全く関係がありません。
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第六話 vs漫夕寺中
夏大会五回戦。試合は1-1のまま、後半が始まろうとしていた。
前半、緑川のミドルシュートで先制するも、すぐに漫夕寺中が1点を返し、両者一歩も譲らぬ試合となっていた。
漫夕寺中の名DF、木暮を前に、雷問中は苦戦を強いられていた。
宇都宮や少林が果敢に攻めるも、木暮の必殺技「旋風陣」を前に、一切歯が立たなかった。
そしてキタムラは、この日もまた、スタメンには選ばれなかった。
だが、今日はいつもと違う。
監督の言葉が、ふと蘇る。
―
――
―――
四回戦が終わった直後の雷問中ベンチ。
「キタムラ、ちょっとだけいいか。お前に話がある。」
響木監督の話し方は、良い話なのか、悪い話なのか、とてもわかりにくい。
話ってなんだ?
俺に?
と思っていると、監督は一冊のノートを渡してきた。
「これは、お前に習得してほしい技が書いてある、秘伝書だ。」
「ひ…秘伝書……?」
ノートを開くと、そこにはグチャグチャの絵と文字があった。
本当にこんなものが、秘伝書なのだろうか…。
「次の試合、すなわち準決勝で、後半からお前を試合に出す。
すぐには習得できないかもしれないが、
チャンスだと思って向き合ってみてくれ」
―――
――
―
そうだ、これは”チャンス”だ。
後半が始まろうとしていた。
キタムラは靴紐をもう一度結び、ピッチへ足を踏み入れた。
準決勝後半の開始を合図するホイッスルが鳴り、後半が始まった。
さあ、やってやろう。
後半もまた、お互いが牽制し合う、スローな展開だった。
あっという間に20分が経過した。
なにかワンアクションを起こさなければ。
そう思っていると、キタムラにボールが回ってきた。
よし。
前にいた少林先輩へ、縦の大きいパスを出す。
少林先輩も抜け出す。
これは決まった…!
そう思った瞬間、ボールは、突如として現れた木暮の足に吸いつくかのように、奪われてしまった。
一体、どこから木暮が…!?
そんなことを思う間もなく、相手のカウンター攻撃が始まっていた。
しまった。
壁山先輩が突破されてしまった。
「「「立向居!!!」」」
漫夕寺中の選手がシュートを放つ。
「立向居さん!!!」
キタムラも叫んでいた。
ここで決められたら、自分は戦犯だ…。
そんな心配を消し去るかのように、
立向居のムゲンザハンドがシュートを止めた。
キタムラは安堵すると同時に、保身的な考えが浮かんでしまったことに対する嫌悪感を抱いた。
チームのことを考えなければいけないのに、またここでも自分のことばかり…。
しかし、そんなことを思う暇もなくプレーは再開する。
キタムラは気持ちを切り替え、冷静さを取り戻す。
パスやシュートを出せば、木暮の旋風陣によってカットされる。
ならば、自分で1vs1まで持っていかなければいけないのか…?
あるいは、旋風陣を打ち破れるほどの力を持ったシュート。
秘伝書だ…!
頭の中にイメージを作る。
汚いながらも僅かに読み取れる情景と文字。
イメージの解像度を高めていく。
今なら…!
「宍戸先輩!こっちです!」
「いけ!キタムラ!」
宍戸先輩から貰ったパスを、一人で持っていく。
木暮は逆サイドだ。
いける。
イメージしていたそれを、ボールにぶつけた。
今まで、感じたことのない、凄まじいパワーを感じた。
それはとても強く、恐ろしいような、
例えるならば、
ワイバーンのような、力。
いけ………!!!!
蹴ったボールがゴールに向かって飛んでいく。
「おつかれ、キタムラ!」
宍戸先輩からチームボトルを受け取る。
「今日のキタムラのシュート、惜しかったなぁ」
「ちょっと、力んじゃったっす…」
「ポストは悔しいよな…。まあ、切り替えて決勝も頑張ろうぜ!」
試合は2-1。雷問中が勝利した。
キタムラが放ったシュートがポストに弾かれた10分後、木暮をうまくかわしたキャプテン少林が決勝点を入れ、そのまま試合は終了した。
決勝進出が決まり歓喜、或いは安堵する雷問の面々の中、唯一キタムラだけは、宍戸先輩に励まされていた。
「あとすこしだったな、キタムラ」
響木監督もキタムラに声をかける。
「監督…。せっかくのチャンスを活かせなくて面目無いです…」
「気にすることはない。秘伝書の技を習得することなど、容易いことではないさ。決勝に向け、気持ちを切り替えてくれ」
秘伝書に書かれた必殺技。
誰が書いたかもわからないノートだが、確かにパワーを感じた。実感があった。
次こそは…。
その時だった。
「みなさん!大変です!」
ロッカールームへ駆け込んできたのは、マネージャーの音無だった。
「帝刻が…………………!
帝刻が……準決勝で…!
負けたそうです………」
「「「……………!?!?」」」
「それも……
0-10で………。」
続く