あらすじ
P◯RIKURA MINDのギタリスト、キタムラユウヤ。
この物語は、彼がバンドを組むよりも10年ほど前の物語である。
サッカー部廃部の危機からわずかな期間で全国大会を制し、国内に留まらず世界にその名を轟かせた『雷問中』。その後も、"伝説の世代"が連覇を果たし、雷問中は日本を代表する強豪校となっていた。 そんな強豪校から”伝説の世代”が卒業し、新たな時代を迎えようとしているその時、雷問中へと続く桜並木の下を歩く、一人の男、いや、漢がいた…。
スポーツ推薦で福岡から上京し、雷問中サッカー部に入部するキタムラ。しかし、その身に降りかかるいくつもの試練や、栗松…。キタムラはその全てを、乗り越ることができるのか。笑いあり、涙あり、元ネタわからないとクソおもんない、ちょっぴり泣けるコメディ。に、したかった。
※重要※
この物語は完全なフィクションであり、実在する人物や団体、既存の作品などとは一切ほんとにマジでガチで超ウルトラ全く関係がありません。
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第一話 最高の春、最悪の始まり
春だ。
東京という街は、耳にしていたほど、忙しなく慌ただしい街ではなかった。
ゆっくりと流れる時間に、キタムラは溶け込んでいた。
ヒラヒラと舞い降りて足元に落ちた桜の花びらを、キタムラは眺めていた。
福岡にはこんな花、咲いていなかった。暴走族が全ての桜を切断してしまったのだ。
福岡は恐ろしい。いつかまた、福岡に桜の木を植えたい、そんなことを考えていた。
そこへ不意に、サッカーボールが転がってきた。
「そこのキミ!こっち蹴ってくれるか!」
ハッと、キタムラは気づく。
この太い声、あの大きなシルエット、雷問中の名ディフェンダー、3年の壁山選手だ…!!
キタムラはすぐに蹴り返すと、なるべく大きな声で、壁山に声をかけた。
「は、はじめまして!この度、サッカー推薦でこの学校に来ました、キ、キタムラと申します!壁山さんですよね?」
「あ!君が!」
どうやらキタムラのことを知っていたようだ。
壁山は笑顔でキタムラに挨拶を返すと、部活を案内すると言って、部員が練習をしているグラウンドに迎え入れた。
「みんな!集合!」
声をかけたのは、雷問中サッカー部キャプテンの少林。
1年生の時には目立った成績を残すことがなかったものの、2年に上がると同時に才能を開花させた。そしてスタメンどころか、世界代表の座をも掴み、その成長っぷりから、3年生ではキャプテンに抜擢された男である。
「今日は新入生を紹介する、そして、新入生には先輩たちを紹介する!」
集められた部員と新入生たち、100人はいるだろうか。全員を並ばせ、ひとりひとり自己紹介させた。
そこには、名門、余花戸中から転入し雷問中の守護神となった3年のGK立向居や、2年生ながら背番号10番を背負うエース宇都宮をはじめ、日本代表選出経験のある、多くのスター選手たちがいた。
キタムラは楽しみであった。
彼らと、サッカーができることを。
キタムラはとにかく、楽しみであった。
その日は結局、全員の自己紹介で新入生は解散となった。
同期のサッカー部員たちと親交を深めたキタムラは、夕方すぎに学校を出た。
夕焼けに照らされた土手を歩いていた。
サッカー少年たちが遊ぶ河川敷
そびえ立つ鉄塔
春の暖かい風。
この街は、本当に優しく、居心地の良い街だ。
最高の春だ、最高の始まりだ。
この時キタムラは
まだ、そう思っていたのである。
翌日、
初めての部活練習が終わったあと
その悪夢は始まった。
部活は、月水木土の週4日行われる。他は自主練だ。この自主練の多さが強豪校の秘訣とも言われていた。
しかしその練習も、木曜日だけは、日本代表招集選手たちが合同練習会に参加することになっているため、監督の響木さんや、チームの主力選手たちが抜けた状態での練習となっていた。
これだけの部員がいる。当然、残った部員たちの中には、練習をサボり始める者や、部室でゲームを始める者たちも現れるのであった。
キタムラは許せなかった。この状況が、こんなことがあっていいのかと。
あの強豪、雷問中が、これでいいのだろうか。
サッカーに対する熱い思いは、やがて怒りへと変わってしまっていた。
この際、先輩や後輩など関係ない。
俺がコイツらを叩き直してやる…!
「あの、こんなんでいいんですか、練習。」
「あぁん?」
名前もわからない2年の先輩に話しかけると、キタムラは自分の主張をぶつけた。
熱く、熱く、キタムラは思いをぶつけた。
しかし一切、聞く耳を持たない。
次第にキタムラはヒートアップしていき、声を荒げていった。
止められなかった。
サッカーを舐めるなと、訴えた。
その時である。
「なんやァー?おまえ」
後ろから声がした。
振り返ると、そこにはとんでもない容姿をした部員が立っていた。
頭頂部は髪が尖るようにそびえ立ち
そこから顔の周りを覆うように生えた茶髪
もみあげは長く
まるで
栗のような容姿。
誰だ一体?こいつは何者だ?
困惑するキタムラを見て名乗り始める。
「ワイは3年の栗松っちゅうもんヤ。おめぇ、1年のキタムラやったか、あんま調子乗っとんちゃうぞー」
「…?」
何を言っているんだこいつは?
調子に乗ってなどいない。
サッカー部員として
事実を言っているだけじゃないか!
キタムラは、栗松を睨みつける。
「なぁ自分、ワイが2年前の日本代表だったこと知らんよーやな。あんま舐めとると、痛い目見るでェー」
日本代表だと…?そんなはず…。
栗松…?
……!!
その名前が、記憶の隅で蘇る。
そうだ、あの時!!!
2年前の世界大会を見ていた時の記憶…
キタムラが最も尊敬していたプレイヤー、吹雪選手が代表復帰するタイミングのこと。
代表選手には人数制限があり、選手入れ替えの際には、誰かが帰国しなければならなかった。
そのとき
帰国したのが
この男、
栗松であった。
「よっしゃキタムラ、おメェ気に入ったわ。今年の罰ゲーム担当はお前や!逆らおう言うんならぁ、容赦せんでェー」
罰ゲーム担当…?
瞬時にはわからなかったその言葉の意味を、キタムラはすぐに理解することとなった。
部室に連れて行かれたキタムラ
何度も当てられたサッカーボール
買いに行かされたカレーパン
強制された語尾の「でヤンス」
ほかでもない
後輩いじめであった。
それも、1対1の。
「ほな、ワイ帰るわ。また明日なァー」
「く…栗松先輩…お疲れ様で…で……でヤンス……」
「おォー言えるじゃねえかァー、ウヒャヒャヒャー」
部室に取り残されたキタムラ。
何がどうして、こうなってしまったのだろうか。
最悪の始まりだ…。
最悪だ…。
最悪で……
ヤンス…。
その時、部室の扉が開いた。
「大丈夫か?」
宍戸先輩だった。
続く